« 本『アンデルセン童話集 2』 | トップページ | 本『アンデルセン童話集 3』 »

本『侍女の物語』

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

『侍女の物語』
マーガレット・アトウッド
斎藤英治 訳
ハヤカワepi文庫

1985年の作品だが、Huluでドラマ化されたことで再び注目されている。
タイトルからヴィアトリア朝時代あたりの話かと思っていたら、
近未来ディストピア小説でした。

語り手がどういう境遇にあるのか、というのは
次第に明らかになっていくわけですが、最初から一種の諦念というか、
何かを諦めていかないと生きていけない彼女の語りがしびれます。

設定自体がとてもおもしろいのですが、
彼女の抑制された語りそのものも読み応えがあります。
静かな諦めと微かな希望、悔恨あたりが混じった感じは
『わたしを離さないで』にも似ている。

人間が管理社会にどうやって飲み込まれていくのか、というあたりは『一九八四年』。
女性が子供を産むための器となった世界からみた
フェミニズム、恋愛観というのもすごい。出産シーンの醜悪さ!

めちゃめちゃおもしろくて他の本を放り出してこればかり読んでいたので、
三日ほどで読み終りました。Huluのドラマも気になる。

<読書メモ>

わたしの姿は何かのパロディーのようだ。
危険の待ち構えている場所にわざわざ降りていく、
お伽話のなかの赤い外套を着た登場人物といったところだ。
血に浸された修道女のようだ。

わたしたちは軒の樋にいる鳩のように低く、
哀れっぽく、悲し気な声で、静かに愚痴をこぼすだろう。

すべて赤いチューリップで、花びらの赤い色は茎に近づくにつれていっそう濃くなっている
ーまるでそこを切られ、その傷口が治りかけているかのように。

その爪のカーヴはまるで皮肉な笑いのようだった
ー彼女をあざ笑うかのように。

自由には二種類あるのです、とリディア小母は言った。
したいことをする自由と、されたくないことをされない自由です。
無秩序の時代にあったのは、したいことをする自由でした。
今、あなた方に与えられつつあるのは、されたくないことをされない自由なのです。
それを過小評価してはいけませんよ。

デート・レイプねえ、とわたしは言った。あなたって本当に流行を追うのが好きね。
何かのデザートの名前みたいだわ、デート・レイプだなんて。

メーデーの語源を知ってるかい? とルークが言った。
フランス語なんだよ、と彼は言った。M’aidezメデから来ているのさ。
わたしを助けて、という意味だ。

庭の花壇のチューリップは今まで以上に赤くなっている。
そしてワイングラスではなくて聖杯の形に花びらを大きく広げている。
満開に花を咲かせている。でも、いったい何のために? 
しょせん無駄なのに。時間がたてば、花びらは裏返しになり、
ゆっくりと爆発し、鱗のように飛び散るのだから。

未来はあなた方の手に、と言った。でもその手のひらには何もなかった。
空っぽだった。未来でいっぱいになっているのはわたしたちの手の方なのだった。
その未来はつかめたとしても見えないものだった。

彼女の歳になっても、まだ自分を花で飾りたいと思うらしい。
そんなことをしても無駄なんじゃないの、とわたしは彼女に向かって心のなかで言う。
もうあなたには花は役に立たないわ、あんたは枯れちゃったのだから、と。
花は植物の生殖器だ。

あなたなら彼らのために天国を創ることもできるかもしれません。
わたしたちはそのためにあなたを必要としているのです。
わたしたちは地獄なら自分たちで創れるのですから。

脳がかつてカリフォルニアでたくさん作られていた美しい夕焼けの
グリーティング・カードのように、柔らかいテクニカラーの色調になってしまうのだ。
表面だけがつやつやした心。

日差しは強くはないけれど、ブロンズの塵のように
重くいたる所にたちこめている。

彼女たちの視線が、素肌の上を這う小さな蟻のように感じられる。

恋に落ちたわ、とわたしたちは言ったものだ。あの人に首ったけなのよ。
私たちは落ちる女だった。私たちはその落下の運動を信じていた。
それは空を飛ぶのと同じことように無類に楽しく、同時にすごく寂しく、
すごく極端ですごく不安な体験だった。
神は愛である、とかつての人たちは言った。わたしたちにとっては愛が神だった。
そして恋愛は、天国のようにいつでもそこに待ち受けていた。
身近にいる特定の男性を愛するのが困難であればあるほど、
わたしたちは観念的で絶対の「愛」を信じた。
わたしたちはいつもそれが現実に顕現するのを待っていた。
その言葉が肉体化するのを。

« 本『アンデルセン童話集 2』 | トップページ | 本『アンデルセン童話集 3』 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 本『アンデルセン童話集 2』 | トップページ | 本『アンデルセン童話集 3』 »

ランニング記録

無料ブログはココログ